G.E.Massenez
マスネ
❦ 詳細・歴史
マスネ社は、アルザス地方で中世から受け継がれてきた伝統あるオードヴィとクレームを今も作り続けている由緒ある会社で、品質においてはヨーロッパ一を誇るメーカーです。
1870年、ジャン・バティスト・マスネにより設立されました。フルーツ・ブランデー“シュナップ”を作ったのが現在のマスネ社の始まりです。
1913年には、ウジェーヌ・マスネが独自の製法を開発し、フランボワーズからオードヴィを造り成功をおさめ、マスネ社といえばフランボワーズのオードヴィと言われるほど著名になりました。
マスネ社のあるアルザス地方はフランスの果実の三大宝庫のひとつであり、良質の果実をふんだんに仕入れることができ、そのことも高い品質を保ち続けられる理由の一つです。また、最新の設備を導入すると同時に、熟練職人による手作業で昔と代わらぬ高品質のオードヴィを造り続けています。
1950年代の初め、バッセンベルグに工場を移します。1970年には、ヴィレ渓谷の入り口、カステック城前に最新の設備を備えた蒸留所を建設、現在、この工場からポール・ボキューズやエベルランといった有名レストランをはじめ、世界各地に最高級のオードヴィが出荷されています。
❦ 畑
オードヴィの品質は使用する果実によって決まります。いいオードヴィを造るには、何よりもまず最良の果実を選ぶ必要があります。
果実のよしあしは土壌、そして気候に左右されます。サクランボにしても、山のものと平野のものとは違います。太陽のよくあたったものは糖分を多く含んでいます。もしよく熟していない果実や腐りかかった果実が混じると、オードヴィの風味が損なわれてしまいます。そのため、マスネ社では最良の果実のみを厳選して使用しています。かつては自社の果樹園を所有していましたが、自社の果樹園ではたとえ作柄が悪い年でもその果実を使わなければなりません。そこで、マスネ社では自社畑を売却し、その代わり栽培地に何度も赴き木の状態、つぼみ、果実の状態をチェックし、最高の品質の果実を仕入れる努力を怠りません。厳選された最高品質の果実の使用、これはマスネ社のオードヴィが他社製品よりも値のはる理由のひとつでもあります。
果実はきちんと木箱に入れられた状態で工場に運びこまれます。箱に入っているということは、空気が通るので腐りにくい、いい状態であることを示しています。トラックの荷台に裸のままの果実を何トンも積みあげて運搬するのでは潰れが発生してしまいます。
工場に到着した果実は不良果がないかどうか選別が行われた後、破砕機にかけます。種のある果実の場合は、ここで20%ほどゆっくりと砕かれます。生産時間を短縮するために80%ほど砕くメーカーもありますが、そうすると種の味が出すぎて苦味が出てしまいます。
マスネ社では、時間がかかってもゆっくり丹念に砕いています。潰した果実は、発酵タンクに入れます。果実自体の重みでピューレ状になり、2日ほどすると発酵が始まります。発酵は、果実に含まれる糖分が空気に触れることでアルコールへと変化するものです。この時に糖分を加えることは、フランスの法律で禁止されています。
❦ 醸造
発酵はオードヴィの生産過程の中でも最も重要な課程です。どの時点で発酵を止めるかは熟練職人である製造責任者が経験をもとに決定します。早すぎても遅すぎても品質に影響が出てしまいます。最新の設備を導入していても、発酵を止めるタイミングを見極める職人的エキスパートの腕が必要となるのです。
発酵にかかる時間は果実によって違いますが、5~6週間かかります。発酵を止めた後は、完全密封します。この密封状態のままで数年間保存可能です。すぐ使わないものは果実の出来の悪い年のために保管されます。そうすることで、毎年同じ品質のオードヴィ造りを行なうことができるのです。マスネ社の持つストックは約5千トン。このようなストックを持つのはマスネ社だけです。なぜなら、ストックの管理には経費がかかるからです。
糖分を多く含む果実は上述のように果実自体の持つ糖分で発酵を行いますが、糖分の少ない果実にはマセラシオンという方法を取ります。たとえばフランボワーズのような糖分の少ない果実は、アルコールに漬けておきます(マセラシオン)。マスネ社では、マセラシオンには同じ果実のオードヴィを使用します。そのため、香りがとても豊かになるのです。もちろん、マセラシオンの期間も重要で、職人の判断で決定します。
マスネ社のアランビック(蒸留釜)は1500リットル容量の赤銅製です。コニャックやアルマニャックの場合はアランビックを直火で温めますが、フルーツ・ブランデーはジャム状になっているのでこのまま温めると焦げてしまいます。そこで、周りをステンレスで囲み、その間に沸騰したお湯をいれ湯煎状態にして蒸留します。これはガブリエル・マスネが考案した方法です。他社製品の中には焦げた匂いのするものがありますが、マスネ社ではこの湯煎状態での蒸留を行うので決してそのようなことはありません。
蒸留して得られる蒸留液は、頭(テット、最初の蒸留液)、心臓(クール、真ん中の蒸留液)、尾(クー、最後の蒸留液)から成りますが、マスネ社では最初と最後の部分を除き、クールのみを使用します。どこまでがテットなのかなどの判断にも熟練職人ならではの経験が必要です。果実のアロマを活かすには、蒸留の工程もゆっくり時間をかけて行うことが大切です。
こうして出来上がったオードヴィは無色透明で、アルコール度数は60~70度です。厳しい試飲が行なわれ、合格したもののみを貯蔵タンクに入れます。このタンクの内側はガラス・コーティングしてあり、オードヴィは密封された外光から遮断の暗闇で寝かされます。
熟成中には、初年度に3度、2年目からは年1度の割合でアルコール度数が下がっていきます。ドリンク用のオードヴィはまろやかさと香りが重要ですので、繊細さを出すために最低でも4年間寝かせます。一般に果実自体の香りが弱いフランボワーズやポワールは短く、キルシュ、ミラベルなどは長く寝かせます。マスネ社では、ドリンク用のオードヴィはすべて最低4~5年間寝かせます。
貯蔵タンクに入れたオードヴィの中でもアルコール度数の高いものは、希望する度数にするために水で割ります。通常は蒸留水を用いますが、マスネ社ではヴィレ渓谷に湧き出る素晴らしい天然の湧き水を使います。水を加えるのはボトリングのときです。この段階でアルコール度数は安定し、以後変動はなくなります。
アルザス地方は果実の宝庫であると同時に、フルーツ・ブランデーの生まれ故郷でもあります。しかし、アルザスという地域は幾度となく戦いの場となり、その都度国境やそこに住む人々の国籍が変わるという歴史がありました。そのため、アルザス生まれのオードヴィにはコニャックやアルマニャックのようにはAOCが制定されていません。
しかし、フランスには厳しい規制があり、オードヴィの原料は果実のみを使用することが明確に規定されており、アロマ、砂糖、グリセリンなどの添加は一切認められていません。ですので、フランスのオードヴィはあくまでピュアでナチュラルなアルコールであると言えます。
オードヴィの歴史は1650年にまでさかのぼります。17世紀のアルザスではコレラが流行り、その薬として修道僧がサクランボに“火を入れ(蒸留)”て薬として使ったのが始まりです。1913年にウジェーヌ・マスネが独自の製法を開発し、野生のフランボワーズからオードヴィを造り、マスネ社といえばフランボワーズと言われるほどの大成功を収めました。
マスネ社は1870年設立。ジャン=バティスト・マスネがフルーツ・ブランデー“シュナップ”を造ったのが始まりです。その後、ガブリエル・マスネが伝統を守りつつ、近代的な設備を導入、現在のマスネ社が確立しました。
マスネ社の製品は、ウィーンの品質を誇るオスカー賞など輝かしい賞をいくつも獲得するほか、エベルランなど世界の一流レストラン、パティシエたちに支持されています。