Itsasmendi
イチャスメンディ
❦ 詳細・歴史
イチャスメンディはピカソの絵画で知られる町、ゲルニカに構えるワイナリーである。チャコリの3つのD.O.の内、1994年にビスカヤ県に設立されたD.O.ビスカイコ・チャコリーナに畑を所有する。この地域は8世紀からのブドウ栽培の歴史を持ち、19世紀にその最盛期を迎えたが、その後フィロキセラや産業の工業化、スペインの内戦によりワイン産業は完全に衰退へと追い込まれた。しかし1989年、地元の有志が集まり、長年放置されていた畑にブドウを植樹し、ワイン造りの伝統を復活させようとイチャスメンディを設立。醸造責任者にはスペイン屈指の女性醸造家アナ・マルティンが招かれた。
アナはひとつの生産地域で複数の醸造所を受け持つことはしない固い信念を持った醸造家である。ビスカヤで生まれ育った彼女は、シガレスやリベラ・デル・ドゥエロ等スペイン各地のワイン造りに携わりつつ、故郷が誇るワインを手掛けたいと望んでいた。その夢を実現させる場としてイチャスメンディの醸造を引き受けたのは、それがただ過去を追いかけるだけではなく、未来への展望がある冒険心豊かなプロジェクトだったからである。
例えば植樹に際しては、チャコリの主要品種オンダラビ・スリだけでなく、この土地に一番適合する品種を探るためにアルバリーニョやソーヴィニヨンブラン、リースリングなど外来品種を含め17種類のブドウが新たに植えられた。それに平行し、20年近くかけて畑ごとの調査と選別が行われ、独自の個性を備えたチャコリを育む特定のエリアが探し出された。さらに、2006年からはバスク自治州政府の調査チームの協力の下、土壌と畑の精密な地図が作成され、ワイン造りに役立てられている。
現在、所有する畑は35ha。13の村に広がり、その半分はウルダイバイ自然保護区に含まれる。バスク語で『海(=Itsas)』と『山(=Mendi)』を表すワイナリー名の通り、豊かな自然に囲まれた環境を尊重したブドウ栽培では、剪定した枝を粉砕したものを肥料として使用し、畑には草を茂らせる。バスクの中でも特に雨が多く有機農法を採用するのが非常に難しい地域だが、薬剤の使用は最低限に止め、毎年土壌とブドウの状態を分析にかけてこの栽培法が環境にどのような影響を与えているのかを確認している。
これらの緻密な準備によって得られたブドウからどのようなチャコリを造るのかは醸造家のアナに託された。彼女はワインの原材料となるブドウの本質を理解し、その独自のキャラクターをワインに導くことを得意とする。試行錯誤の末たどり着いたのは、故郷の誇りである土着品種オンダラビ・スリのフレッシュさを生かしつつ、バスクのトップシェフ達が手掛ける料理のように洗練された多彩な味わいを持つチャコリ。単調な軽快さではなく、凝縮したクリーンな果実と豊かな表情を備え、コップではなく、ワイングラスでゆっくりと楽しむことができる泡のない高品質なスティルの白ワインである。
時には外来品種をブレンドし、時にはブドウを遅摘みし、様々な手法でチャコリの可能性を示した彼女は、『軽くてフレッシュ』というそれまでの固定概念を覆し、バスクの食文化を担う新たなチャコリ像を築いた。イチャスメンディのチャコリはマルティン・ベラサテギやムガリッツといったバスク有数の星付きレストランにもオンリストされるようになり、またその成功はチャコリの生産者を活気づけた。今やビスカイコ・チャコリーナ自体、外来品種への取り組みが積極的であり、チャコリの3つのD.O.の中で中心的存在といわれている。スペイン随一のワインガイド、ギア・ペニンが「地元の『バルのワイン』を超えた高いクオリティを引き出している」と評するこの地の躍進は、イチャスメンディなくしてありえなかったことは、想像に難くない。
❦ 畑
土壌 砂質、石灰質、泥灰質、ローム質、粘土質、頁岩、砂岩など変化に富む
栽培方法 周囲の環境を尊重したブドウ栽培。剪定した枝を粉砕したものを肥料として使用し、畑には草を茂らせる。バスクの中でも特に雨が多く完全に有機農法を採用するのが非常に難しい地域だが、薬剤の使用は最低限に止め、毎年土壌とブドウの状態を分析にかけ、この栽培法やワイン造りが環境にどのような影響を与えているのかを確認している。
❦ 醸造
全体の30%は機械摘みだが、ヌメロ・シエテやウレスティなど上質なワインに用いるブドウは全て手作業で収穫。セラーでは空気圧式のプレス機や温度管理可能な様々な容量のステンレスタンクなど、最新の機材を導入している。醸造・熟成にはワインによってステンレスタンクやバリックを使い分けている。